モルヒネは、「自然界が人類に与えた最高の鎮痛薬」と言われています。
そのモルヒネは「医療麻薬」に分類され、ちょっとした怪我をして痛い程度では利用することができません。
ただ僕は、このモルヒネを何度も利用したことがあります。もちろん合法的に。
というのも僕は、昔に首の骨を折り入院を余儀なくされました。首の骨折による神経切断で、ほぼ全身が動かせなくなり、それによる全身の痛み(痺れ)が24時間休むことなく続き、夜も眠れなくなってしまいました。
そして眠れない夜が何日も続いた時、医師に処方されたのがモルヒネでした。
以下では、モルヒネを十数回(多くても30回未満だったと思う)ほど利用した時に感じたことについて書きたいと思います。
目次
モルヒネを利用するようになった経緯
先程も、簡単に述べましたが、僕は20年前、事故により首の骨を折り、頸髄損傷となりました。
頸髄損傷となったことにより、首の神経が切れて、脳の命令が体に届かなくなり、手足を動かせなくなり寝たきり(車椅子)生活となりました。
現在も、実際に動かせるのは以下のピンク色の部分のみです。
頸髄損傷で、体が動かせなくなるだけなら、まだよかったのですが(よくないけど)、神経切断による疼痛(痺れ)が全身を襲い、これにかなり悩まされました。
とにかく、神経が切れてからというもの、24時間休みなく体の痺れが続きます。もう毎日毎日、体に針がザクザクザクザク刺さったような痛みがエンドレスで襲ってきます。
特に、指先は神経が多く通っているので、指先に針が何千本と刺さったような痛みが死ぬまで続きます(首の神経は切れているのですけど、その切れた部分の痛みが脳に伝わります)。
僕は、受傷当初、この痛みに耐えられず、眠れない夜が何日も続きました。
さすがに、何日も眠れずに、衰弱している状態を見た医師も「痛みを何とかしてあげないと」と思ったのでしょう。
その日の夜からモルヒネが処方されました。
モルヒネを初めて使ったときの感想
モルヒネが処方された夜、看護師さんが注射器を持って現れました。
他にどういった方法があるのかはわからないのですが、僕の場合モルヒネは、お尻に筋肉注射をする形で投与されました。
初めてモルヒネを投与した日は、結構な衝撃でした。
何だか目の前がトローンとしてきて、頭もフワフワとなり、何だか痛みも和らいだように感じ、そのまま間もなく気持ち良さとともに眠りに落ちた記憶があります。
とにかく、毎日ちゃんとした睡眠がとれていなかったせいもあると思うのですが、とにかく気持ちよく睡眠にいざなわれた感覚です。
正直、その時は「さすが、厳しく使用制限がある薬だけあって効果はすごい」と驚かされました。
モルヒネについて簡単に説明
ちなみにモルヒネが痛みを消す仕組みを簡単に説明すると、モルヒネが痛みの伝達経路を先回りして痛みの受容体に伝わるのをブロックするため痛くなくなるのだそうです。
この痛みの伝達経路で、「オピオイド受容体」に作用する薬がモルヒネです。モルヒネは痛みの原因となる神経伝達物質よりも先回りして「オピオイド受容体」に結合します。この作用により、神経細胞は痛みの信号を受け取ることができなくなり、痛みを止めることができるのです。
参考 がんの痛みを消し、延命効果もあるモルヒネは自然界が人類に与えた最高の鎮痛薬 | がんとQuality Of Life | 「がん治療」新時代
副作用についてはwikiには以下のように書かれています。
モルヒネの副作用には依存性、耐性のほか悪心嘔吐、血圧低下、便秘、眠気、呼吸抑制などがある。便秘はほぼ100%、悪心嘔吐は40%–50%の症例でみられる。眠気はモルヒネ使用開始から1週間の間にみられ、その後は自然に改善することがほとんどである。
僕が眠くなったのも、副作用が原因だったのかも。
痛みが強いとモルヒネを打ってもらう日々
それからというもの、疼痛(痺れ)の痛みが強い日は、医師にモルヒネを処方して筋肉注射してもらう日々がしばらく続きました。
とにかく、モルヒネを投与すると、よく眠れるので、結構頻繁にお願いしたような気がします。確か、何日か連続でモルヒネを打ってもらったこともあったと記憶しています。
僕は基本、寝たきりで暇だったので、何回もモルヒネを利用しているうちに、モルヒネの影響について分析していた自分もいました。
その時、感じたモルヒネの効果をまとめると以下のような感じです(あくまで僕が思った感覚です)。
- モルヒネを打つと頭がフワフワしてきてまどろんだ状態になる
- 頭がフワフワした状態で次第に眠くなってくる(眠れてなかったからというのもあるかも)
- 痛みも和らぐのは間違いないと思う
- ただ、僕のような神経性の疼痛の場合は痛みを完全に取り去ることはできない
- 痛みは完全に取れなかったけど頭がフワフワなのでどうでもよくなる
- モルヒネの効果が切れた次の朝は特段変わりもなく普通に戻る
- 僕の場合は特に辛い副作用は全く感じなかった
ただ、何度も何度も利用していると、同じ量では同様の効果は得られなくなってきます。
次第に、痛みが和らぐ度合いも減り、夜も眠れなくなりました。それに伴い、モルヒネの処方をお願いする回数も増えたように思います。
その時の僕の状態は、「モルヒネを打たないと、よく眠れないからモルヒネを打ちたい」といった感じだったと思います。今になって思えば、これが依存性なのかもしれません。
モルヒネの投与が終了したとき
その後、あまりモルヒネが効かなくなりつつも、利用しないよりはマシだったので何度か処方して貰った後、主治医から言われました。
「これ以上、薬を投与するのは良くない。痺れは痛いかもしれないけど、家に帰っても薬を打つわけにはいかない。痺れの痛みは慣れるしかない」と。
僕の場合は、怪我による障害を負いつつも、この先何十年も生きていかなければならないわけです。なので「受傷によるショック期をある程度抜けた」と判断した時点で、主治医が中止を決めたんだと思います。
僕も、あれ以上モルヒネを利用していたとしても、効き目は少なくなっていたし、医療麻薬と言われるだけあって、あまり多用しても良くないだろうと思っていたので「はい分かりました」と言った覚えがあります。
それ以降は、モルヒネは利用していません。もちろん、医師の処方がないと利用ができないので、「利用したい!」と思っても利用はできないんですが。
依存性はどうだったのか
モルヒネ投与を中止してから、しばらくは再び眠れなくなったということもあって、「モルヒネをお願いしたい」という場面は正直何度かありました。
ただ、僕の場合は、2週間から1ヶ月もしないうちに、そういった思いもなくなったように思います。
僕などは、麻薬と聞くと、「頼む薬を薬を頼む!」みたいな状態になるイメージもあったのですが、きちんと医師が処方した量だけ利用する分には、禁断症状状態になるようなことは、体感的にちょっと考えにくいです。
そりゃ、薬の量をだんだん増やしていけばそういったこともあり得るかもしれません。ただ、医師も患者の今後のことを考えて、きちんと処方しているので、十数回利用した程度では、強い依存状態にはならないように感じました。
まとめ
その後、初めてモルヒネを利用してから、20年が経過しようとしています。
けれど、モルヒネ投与を中止し退院してから、「モルヒネを打ちたくて打ちたくてしょうがない」なんて状態には1度たりとてなったことはありません。当然、退院してからモルヒネを投与した事もありません。
なので僕が今後、何かの怪我や病気で一時的にモルヒネを利用する必要性が出てきたら、痛みを取るためにモルヒネを利用することには、あまり抵抗は感じません。
モルヒネを利用することにより、痛みが和らぐことは間違いないですし、医師の指示に従っていれば強い依存になる可能性も低いと考えるからです。
もし、痛みを取ることにより、よく眠れたり、楽になるんだったら、医者が許せば積極的に使用すると思います。
で、20年後の僕の頸髄損傷の疼痛(痺れ)による痛みはというと、受傷当初から、痛みの強さは全く変わっていません。今も、全身を何千本もの針で刺されている感覚は、同じです。正直、相変わらずビリビリジンジン痛いです。
けれども、人間やはり慣れというものはあるようで、何年も痛みが続くと、「うまい気のそらし方(痛みとうまく付き合う方法)」がわかってきて、何とか生活はできています。
一時期、モルヒネに頼るような状態だったにもかかわらず、今はうまく痛みと付き合えている状態になっています。そう思うと、つくづく人間の体は、不思議なものだなぁと思います。