先日、異所性骨化(いしょせいこっか)という病気になりました。
その病気が原因で、大腿骨まで骨折することになってしまいました。
ただこの異所性骨化という病気、ネットを見ても知りたい情報(体験談)が見つかりませんでした。
なので、「(脊髄損傷者が)異所性骨化になったら、こういったこともありえるよ」ということを書き記しておこうと思います。
目次
異所性骨化とは
日本医事新報社によると異所性骨化とは、以下のように、本来骨が存在しない部分に骨ができる病気のことです。
異所性骨化とは,本来骨組織が存在しない部位,すなわち筋,筋膜,靱帯,関節包などに異常に骨形成が起こる現象であり,骨梁構造を認める点が石灰化との違いである。好発部位は骨盤,股関節,膝関節,肩関節,肘関節などである。
僕の場合、左足の股関節部分に不必要な骨ができました。
発症の原因と考えられているものはこちら。
発生病態としては打撲,脱臼,骨折などの外傷,暴力的な可動域訓練や粗暴な手術操作などの(準)医療行為により発症することが多い。また長期間の臥床・外固定,人工呼吸器使用,脳・脊髄損傷,熱傷,透析,人工関節手術などが発症の契機となることもある。
僕は頸髄損傷なので、「脊髄損傷に起因する発症」の可能性が高そうです。
実際、僕の周りの頸髄損傷(脊髄損傷)の方で、この病気になっている人を何人か見たことがあります。なので実感としても脊髄損傷の人の発症率は高いように感じる。
僕のCT画像で説明すると、画面右上(左股関節)部分に、本来ない骨が形成されています。
股関節の骨を見ると、白色が薄めで骨粗鬆症気味であるにもかかわらず、異所性骨化部分は濃い白色になっているのが見て取れます。
さぞかし強固な化骨が形成されているのではないだろうか。
症状
症状として以下のようなものがあります。
初期には局所の軽度の疼痛,腫脹,熱感のみであり,臨床症状からの早期診断は難しい。進行に伴ってしだいに関節可動域の制限が出現するようになる。
慢性期になると局所の疼痛などの症状は消褪し,関節強直を含めた可動域制限が残る
僕の場合、初期症状として太腿から骨盤にかけて結構な腫れが出ました。
股関節の隙間に骨が出来てしまうので、足の可動域がかなり少なくなってしまいました。
あと症状に、「痛み」について書かれているのですが、僕の場合は頸髄損傷で首の神経が切れています。なので、痛覚が遮断されているため痛み(疼痛)は全く感じませんでした。
症状が進行した現在でも全く痛みは感じていません。
血液検査での症状
後、血液検査をしている場合は、「血清アルカリフォスファターゼ(ALP)」や「CRP」が上昇します。
血液学的には,初期に骨形成を反映する血清アルカリフォスファターゼ(ALP)値やCRPの上昇を認めるが,軽度のことも多い。このため予後判定や治療方針の決定には,X線検査などの画像所見がより重要となる。
僕の場合も、血液検査でALPが異常値になりました(2019年11月)。
股関節が腫れたとき、CRP(炎症反応)も上がるには上がったのですが、そこまで上がらず。0.54程度でした。
ALPは最高値で954になりました(2019年12月)。
最高値が出たのは、異常値が出てから1ヶ月後でしたが、このときまだ何の病気でこのような症状が出ているのか判明していません。なので、対策は打てていませんでした。
この病気が判明していないとき、「ALPの異常値」について調べたら、「胆道がん、胆道性の肝硬変、がんの骨転移」という恐怖ワードが結構並んでいたのを見て、かなりビビッた思い出。
異所性骨化の初期症状から大腿骨骨折までの経緯
僕の場合の、異所性骨化になってから、結構な時間病名がわからず、結構遅れて判明しました。
その後、さらに大腿骨を骨折するまでの経緯を簡単に箇条書きで書きます。
- 2019年10月後半:左太腿から股関節部分が大きく腫れて市民病院の救急外来に行く
- その際は原因がわからず皮膚の病気と判断
- 翌日「皮膚科を受診して」と言われ帰らされる
- 素人目に見てもどう見ても皮膚の病気とは思えなかったので翌日はいかず
- その代わり数日後訪問診療してくださっている主治医に相談する
- 主治医は血栓症(いわゆるエコノミークラス症候群)を疑い大学病院の循環器内科に紹介状を書いていただく
- このとき血液検査のALP値は638(基準値:104 – 338)
- 2019年11月後半:大学病院の循環器内科にかかるが血栓症ではないという判断
- 同院の整形外科(リハビリ科)の紹介状を書いていただく
- 2019年12月前半:整形外科でようやく「異所性骨化」と診断される(症状が出てわかるまで約2ヶ月弱)
- 大学病院の整形外科(リハビリ科)でダイドロネルという薬が処方され飲み始める
- このときALP値は最高値の964(基準値:104 – 338)
- 2020年1月:ALP値:711
- 2020年2月:ALP値:404
- 2020年3月:ALP値は272と基準値内に(基準値:104 – 338)
- 股関節の腫れもある程度引く
- 2020年4月:ALP値:399とまた異常値に入りだす(基準値:104 – 338)
- 腫れはそれほどではないが、また股関節の動きが悪くなる
- ここら辺でまた主治医にダイドロネルをもらって飲み始める
- 2020年5月:ALP値:458
- 2020年6月:ALP値:334と基準値内に(基準値:104 – 338)
- 2020年7月:ALP値:275
- 2020年8月:ALP値:296
- 2020年9月:ALP値:329と症状は治まっているように見えた
- 2020年10月11日:ベッド上で着替えるため座位になろうと背中を押したらバキッという音がして大腿骨が折れる
- 頸髄損傷で感覚がないため痛みはなく大腿骨が折れたまま普通に2日ほど過ごす
- 2020年10月13日:主治医の訪問診療の際に左太腿が大きく腫れているのに気づき大学病院の整形外科に紹介状を書いていただく
- 2020年10月14日:大学病院の整形外科で大腿骨骨折と診断。即入院
- 2020年10月19日:大腿骨骨折のプレート設置手術
- コロナ禍中で面会もない入院生活(キツかった…)
- 2020年10月26日:大学病院を退院
- 大腿骨がくっつくまでしばらく経過観察、車椅子にも乗れなくなる(QOL低下)
- 生活様式が変わり、24時間ベッド上生活でストレスがたまる
- 先行きは不透明、異所性骨化は治る見込みもないので、かなりヘコむ
- ——–以下、執筆後の追記———–
- 2021年2月:大学病院でようやくレントゲンを用いた可動域検査
- 検査の結果、股関節の可動域は30°程度(普通の人なら90°以上)
- これだと椅子には一生座れないので骨化部位の除去手術をすることになるのかも
- 骨化が安定(定着?)するまで経過観察
- 2021年7月:大まかな手術予定が決まる。手術予定日は2021年10月中旬から後半
- ただし確定は8月後半のCT検査次第
- 手術が2021年10月26日に決定
- 大量出血が想定されるため2回自己血を貯血することに
- 2021年9月22日:1回目の自己血の貯血(400cc)
- 2021年10月13日:2回目の自己血の貯血(400cc)
- 2021年10月25日:入院予定
- 2021年10月26日:異所性骨化の手術
- 2021年11月3日:退院
- その後はリハビリ三昧→続きは異所性骨化の手術後編へ
※ALPは基準値変更前の数値です。
これは後になってわかったことなんだけど、異所性骨化が出現しだした時期は2019年7月だった模様。
これは後で近くの市民病院で、過去に撮影したCTを遡ってみてもらったら、症状が出ていたのに気づきました。
この異所性骨化の症状が明確に出だしたのは2019年10月になってからのこと。
脊髄を損傷していると、感覚がシャットダウンされるので、症状が表面的に現れないとなかなか気づけないと思います。
2019年10月に、症状が出始めてからダイドロネルという薬で抑えていました。
けれど、じわりじわりと必要のない股関節に不要な骨が出来ていたんでしょう。
1年後の2020年10月に、座位になろうと少し背中を押したときに、負荷のかかる太腿の骨が折れてしまったものと思われます。
「異所性骨化で股関節が固まったこと」と「長年の寝たきり生活で骨が弱くなっていたこと」の併せ技一本ということなんだろうと思います。
手術後のレントゲン写真がこちら。バッキリ折れてますね…。
この手術中に異所性骨化患部を取り除くという選択肢もあるにはありました。
ただ、外科的に化骨を除去するには、以下のような難点が。
- 当時、骨折から40度近い熱が出ており他の手術をする気にならなかった
- 大量出血を伴う手術になる可能性があるのでリスクも高い
- 外科的に化骨を排除したとしても、その後また同様の症状になる可能性もある
- 手術の刺激で再び同様の症状が現れる可能性すらある
- 除去手術を行うと入院が伸びる可能性も
ということで、異所性骨化を改善する手術は行わず、大腿骨のプレート設置手術のみを行いました。
当時治る可能性に対して、あまりにもリスクが高すぎると感じたので。
正直、異所性骨化という病気で大腿骨が折れてしまうという発想はありませんでした。
これにより、
こんな簡単なことで重要な骨である大腿骨が折れてしまうのか…
と、かなりのショックを受けました。
車椅子にも乗れなくなり、仕事も制限せざるを得ず、結構なストレス生活になってしまいました。
QOLはだだ下がり。
頸髄損傷なので元々寿命は短いとは思っていたけど、今回のことでまた少し短くなった感はある。
まとめ
大腿骨骨折から3ヶ月経って、ようやく精神的にも少しは落ち着いてきたので、久しぶりにブログを書くことができました。
それにしても今回のことで、通院やリハビリ、訪問介護等、やらなければいけないことが、かなり増えました。
通院だって、地方の田舎町から県庁所在地の大学病院まで、ストレッチャーで通える介護タクシーで通う必要がでてきました。1回通院する毎に往復で3万円前後かかります(直線距離で50kmの往復)。
この金額的負担もかなりキツイ…。
これら「やらなければいけないこと」が増えたことで仕事の時間が圧迫され、車椅子にも乗れなくなったことで、自分のやりたいこともなかなか出来なくなってしまいました。
なので、とりあえずブログを書ける状態になったのはよかったかなと。
今後は正直どうなるのかはわかりませんが、この後も通院しつつ何かしらの解決策を見つけていくしかないのかもしれません。
もっと初期に、異所性骨化に気づいていれば、こんな大事にもならなかったのかもしれませんが、痛みも感じず気づけなかったので、こればっかりはしょうがない。
異所性骨化になって検索で調べてこちらのページに来た脊髄損傷の方には、「こんなことも有り得るよ」ということで。
関節が動きづらいからといって無理な力を加えるのはやめておいた方が良いです。
相次ぐ人生の下方修正に、ほとほと参ってしまいますが、無理せず仕事もやっていければと思います。
その後、手術をした結果。
ブログが書ける状態まで、回復されたようで、何よりです。