先日、2017年10月29日にNHKは、血圧関連の特集番組を放送しました。
それは、『血圧サージが危ない ~命を縮める「血圧の高波」~』という、扇動的なタイトルの特集でした。
普段血圧に不安がある方ならば、その不安を更に駆り立てられるようなタイトル。
僕も普段朝の血圧が高いことがあるので「マジかよ…」と思って見始めてしまいました。
けれど、よくよく後から考えてみると「ちょっと大げさすぎない?」と思う部分もあったりで。
そういったことを頭の片隅に置きつつ生活していたら、先日週刊文春で「NHKスペシャル 血圧サージは間違いだらけ」という特集が組まれていました。
血圧の急激な上昇リスクを指摘したNHKスペシャル。血圧が気になる人へ警鐘を鳴らしたのはいいが、その番組作りは、視聴者の誤解を招くものだったという。折しも、高血圧の人は特に注意が必要な季節が到来。血圧変動の専門医たちに冬場に最適な対策を聞いた。
このタイトルを見た瞬間「やっぱそうだったのか」と。
中身が気になったので早速購入して読んでみたところ、NHK特集の扇動的な内容に対して冷静に「あの内容はおかしい」と反論する内容でした。記事を読んだ後には、非常に腑に落ちる内容だったので、僕も思ったことを書きたいと思います。
目次
そもそもNHK特集が言う「血圧サージ」とは
そもそも、「血圧サージ」という言葉に聞き覚えがない方のために簡単に説明しておきます。
まず「血圧サージ」とは医療用語ではありません。それは、NHK自体がサイト上でも以下のように書いています。
(注)番組では、通常の変動とはタイミング・大きさが異なる血圧の変動のことを総称して“血圧サージ”と呼んでいます。医療用語ではありません。
ではそんな医療用語ではない「血圧サージ」をNHKはどのように紹介しているかというとこちら。
ふだんは穏やかな血圧が、まるで大波のように変動し血管にダメージを与える“血圧サージ”。大切な臓器にダメージを与え、命にかかわる病気のリスクを高めることが明らかになってきました。(中略)
健康診断や医療機関での測定などで、血圧が一定値を超えると診断される「高血圧」。ところが、健康診断では正常なのに、一日のあるタイミングだけ血圧が異常な上昇・下降を繰り返すことがあり、それが病のリスクとなっていることが分かってきました。
サージとは英語で「高波」という意味があります。
NHK曰く「普段正常な血圧の人でも、場合によっては一時的に血圧が急上昇し(血圧サージが起きて)、これは日本人を襲う新たな脅威となる!」とのこと。
こういった冒頭で始まったものだから、小市民な僕としても不安となり、ついつい番組を見てしまいました。
NHKが放送した「血圧サージ」のリスク
その後、番組冒頭「血圧サージ」のリスクも語られます。
NHKが言うには、3年前に発表された、およそ2万1000人の「心臓病(心筋梗塞など)と脳卒中(脳梗塞、脳出血など)のリスク」を調べた研究結果によると、「血圧サージ」には以下のリスクがあるのだとか(※あくまでNHK曰く)。
正常な人の心臓病と脳卒中のリスクを1とすると、「単なる高血圧の人」のリスクは1.42倍になるという。
これに対して「朝に血圧が高く、血圧サージが疑われる人」のリスクは2.47倍。そして、「高血圧で、更に朝の血圧サージが疑われる人」のリスクは3.92倍まで跳ね上がるという。
こんなのを聞かされると、僕のような一般市民は思うわけです「えっ!血圧サージって普通の高血圧よりもそんなにリスクが高いの?」と。
少なくとも、僕のような医療素人は、そのように受け取りました。
NHKが放送した「血圧サージ」の定義
で、僕も思うわけです。「自分も毎日朝血圧を測ると、たまに上が150の時とかあるけど大丈夫なの?どんな人が血圧サージに当てはまるの?」と。
そのNHK特集では、血圧に問題ないとされている20代~60代の男女80人を集め、朝昼夜の3回家庭で血圧を測定。いずれか1回でも上の血圧が、135を超えていた人を「血圧サージあり」としていました。
出典 放送した内容・リスクチェック結果|“血圧サージ”が危ない|NHKスペシャル
その80人の中で「血圧サージあり」とされた人は、25人。実に「健康と思われている人でも80人中25人、31%の人が血圧サージの疑いあり!」とでも言わんばかりの内容でした。
最高血圧135mmHgと言ったら、ちょっとしたことでも超えてしまいそうな数値ではあります。けれど、「血圧に関してあまり詳しくない人」や「普段から血圧に不安がある人」には”本当だとしたら”非常に不安になる内容だと思います。
特集で僕(一般視聴者)が思わされてしまったことまとめ
NHKの意図はどうあれ、その特集で僕のような一般視聴者には、以下のように伝わりました。
- 朝昼晩血圧を測ってそのうち1回でも上が135を超えていると血圧サージの危険あり
- しかも5日間の中で20mmHgの変動があると血圧サージの危険あり
- 通常の人を1とすると高血圧の人の心臓病・脳卒中リスクは1.42倍
- 血圧サージだと単なる高血圧よりリスクが高く2.47倍
- 高血圧の人が血圧サージだとリスクは3.92倍
- 血圧サージやばすぎ
僕も朝の血圧が150を超えてしまうことがあったので、視聴直後は「マジかよ…」と思ってしまったクチです。
ただ、後々自分でこまめに血圧を計ったりして、冷静に考えると「明らかにおかしいだろう」と思うようになりました(※わざわざこまめに測りやすい血圧計を購入してまで計測して確かめてみた)。
そんな中、週刊文春の「NHKスペシャル 血圧サージは間違いだらけ」という記事が出たので、ちゃんとした反論が読みたく購入してみた次第です。
ここがおかしい「NHKスペシャル 血圧サージ」
以下では文春でも紹介されていた、血圧変動の権威でもある、東京都健康長寿医療センター顧問の桑島巌医師が臨床研究適正評価教育機構で紹介されていたNHKスペシャル「“血圧サージ”が危ない ~命を縮める「血圧の高波」~」 に関しての異議を元にした反論を紹介したいと思います。
まず冒頭で、桑島医師は以下のように書かれています。
2017年10月29日放送のNHKスペシャル内容について多くの患者から質問があったのでオンデマンドで見てみた。その内容には医学的に正しいとはいえない番組構成が多々認められたので、長年血圧変動の臨床研究に関わってきた研究者の立場から異議を唱える。
(中略)
本放送では正常人の血圧変動を、「血圧サージ」と呼ぶなど誇大な表現があり、視聴者を不安に陥れ、降圧薬の過剰処方をもたらす恐れがある。
長年血圧変動に関わってこられた桑島医師が研究者の立場から見ても、おかしな点が多かったようです。
「健常人の生理的血圧変動」と「高齢者や高度動脈硬化症患者の血圧変動」を混同している
一応、もう一度番組内で紹介された以下の画像を引用。
出典 放送した内容・リスクチェック結果|“血圧サージ”が危ない|NHKスペシャル
以下、桑島医師の異議。
本来、血圧変動は脈拍変動と同じく自律神経バランスによる生理的現象であり、健常人でも緊張、怒り、会話、運動直後、スポーツ観戦、筋トレ、面接など容易に上昇するし、一方においてリラックス、運動後、睡眠、音楽、などで速やかに下がる。このような血圧、脈拍変動は正常な交感神経と副交感神経の自律的バランスによるもので、活動するためには不可欠な生理的変動である。
放送されたなかでの血圧正常者での朝昼夜の家庭血圧測定で、1回でも135mmHgを超えた人を「血圧サージあり」とするのは明らかに誇大表現であり、この程度の一過性上昇は健常者の生理的変動の範囲内である。
一方、すでに動脈硬化が進展しており血管が硬くなっている人の血圧変動は、動脈の弾力性が消失していることによって生じる現象であり、その変動は動脈硬化進展の結果として生じる現象である。
このような生理的血圧変動と動脈硬化の結果としての血圧変動を一緒にしているところがこの放送の大きな問題点である。
引用 NHKスペシャル「“血圧サージ”が危ない ~命を縮める「血圧の高波」~」 に関しての異議
これは僕も番組放送後「こんな20程度の血圧変動でも血圧サージになるの?」と思いました。
その結果、放送後「ちゃんと自分の血圧を知ろう」と血圧計を購入し、1日何度も事あるごとに血圧を計って「自分にどのような血圧変動が起きているか」を調べてみました。
NHK特集では、「5日間の幅が20mmHg以上あると血圧サージの危険あり」みたいに紹介されていましたが、僕が10日間ほど日に10数回計った限りでは、1日の中でも20mmHg以上の変動はザラにありました。
その結果、毎日規則的に以下のような感じでした(以下は上の血圧です)。
- 安静時の血圧:90~110
- 朝起きたて:90~110
- 朝起きて1時間から2時間:130~160(朝起きてしばらくすると血圧が上がってくる)
- 朝起きて2時間後:90~120(起きて時間が経つとそのうち下がってくる)
- 食事中から食後しばらく:80~100(食後は下がる)
- 急に寒い部屋に行ったら:130~160
- 起きた状態から横になった直後:140~160(寝たことにより血が急に巡るから?)
- 排便中:170~200以上
これはあくまで、僕のデータなので他の人はどうかは分かりません。
けれど、僕自身は毎日1日の中で20mmHg以上の変動をしまくりです。
NHKが言うには「上の血圧が135以上、20mmHg以上で血圧サージの危険があり」みたいな言い方でした。その程度で危険なのであれば、僕くらいの変動があれば超危険で、かなりやばい部類に入るのではないでしょうか。
これに対して、桑島医師は週刊文春記事内で以下のように説明しておられます。
血圧変動そのものは生理的な現象であって、緊張、怒り、会話、運動、スポーツ観戦、筋トレ、面接、排便などで簡単に上昇します。健常な人でも一時的に上の血圧(収縮期血圧)が200mmHgを超えることだってある。
それを「異常」と言われたら、朝、ラジオ体操も安心してできません。
僕は医療の素人ではありますが、ここ10数日間血圧計で自分の血圧を計測してみた結果、この意見は非常に腑に落ちる内容でした。
だって、NHKが言う「血圧サージの定義」からしたら、僕の血圧変動は「死んでてもおかしくないんじゃない?」くらいの変動だったので。
また、文春記事内で桑島医師は以下のようにも語られています。
急激な血圧上昇が危険なのは、高齢や糖尿病などで動脈硬化が進み、血管がもろくなっている人であることを番組内でハッキリ言うべきでした。
動脈硬化リスク要因がない健常な人の血圧変動に対しても「血圧サージ」を当てはめるのはおかしいのではないかと僕も思います。
その他に記事内では、高血圧を専門に研究する横浜市立大学付属病院 循環器内科准教授の石上友章医師も以下のように語られています。
眠っている間、健常な人は副交感神経が優位になって血圧が低下します。一方、睡眠から目覚めたときには、交感神経優位に切り替わり、血圧が上昇します。
これは僕の日々の血圧計測結果とも当てはまります。
なので、僕がたまに朝血圧を測るとちょっと高いことがあるのは、こういった生理現象の可能性も十分にあると思います。これを知れただけでも、週刊文春を購入した甲斐はありました。
1回でも上の数字が135mmHgを超えると血圧サージ?
あと、朝昼晩血圧を計測して1回でも135を超えると「血圧サージ」とでも受け取られるような内容に、異議ページにて以下のように書かれています。
血圧サージが収縮期血圧135mmHgというのは全く根拠のない数字である。
家庭血圧や診察室血圧は数分間の安静の後数回測定した血圧での値が基準であり、サージのような一過性の血圧上昇の数値ではない。
高血圧の基準はあくまでも安静の状態で数回の血圧測定で高血圧か否かを決めるものである、一過性の上昇で高血圧あるいはサージと診断すべきではない。誇大表現によって高血圧患者を量産し、降圧薬使用を増やすのみである。
これも至極ごもっともだと思います。
人間、ちょっと怒ったり、運動したり、寒いところ行ったり、深酒をしたりするだけでも、血圧が135なんて結構余裕で突破してきます。
これのすべてをあたかも「血圧サージ」として「心筋梗塞・脳卒中のリスクが高い」と謳われたのであれば、対応する医師もたまったもんじゃないでしょう。
実際次の日に、病院などで医師への相談が多かったようです。「NHK定義の血圧サージ」に対して、降圧剤を処方していては、医療費を無駄に圧迫するでしょう。
「血圧サージ」で上がるリスクは本当?
番組冒頭で語られていた、以下のリスクについても疑問符が付くそうです。
- 通常の人を1とすると高血圧の人の心臓病・脳卒中リスクは1.42倍
- 血圧サージだと単なる高血圧よりリスクが高く2.47倍
- 高血圧の人が血圧サージだとリスクは3.92倍
このリスクの根拠となったのは、番組にも出演した自治医科大学循環器内科教授の苅尾七臣医師を筆頭著者とする論文です。
その論文自体、「研究対象となった2万1000人は高血圧治療を受けており、調査開始と共にある特定の降圧薬をベースとしていた治療を受けている人たち」だったそうです。
実際、ドクターズガイドの苅尾医師の紹介を見ても、心血管疾患の危険因子を有する方や、心血管ハイリスク患者を対象とした研究をされている方のようです。
心血管疾患の危険因子を有する外来通院中の患者5,000名を対象にした家庭血圧の予後予測能を評価する「日本人における家庭血圧の心血管予後推定能に関する研究(J-HOP研究 =Japan Morning Surge – Home Blood Pressure study)」をはじめ、2009年からは全国の心血管ハイリスク患者1万名を対象に、24時間血圧モニタリングを行い、心血管疾患を追跡調査する「日本人における自由行動下血圧追跡研究(JAMP研究)」を開始した。
こういった内容を伝えないで、NHK側は、あたかも「健康な人でも血圧サージがあれば通常の人の2.47倍のリスクがある」といったような伝え方をしたのはいかがなものかと思います。
番組構成により苅尾医師にも結構迷惑がかかったのではないかと推測します。
実際、苅尾医師も文春の取材に対して以下のように答えられています。
この研究で判明したリスクは、より正確に言えば高血圧の治療中でコントロール不良の方の早朝高血圧のエビデンスという事になります。
NHKはきちんと番組中に、「高血圧治療中の方を研究して出てきたリスク」と伝えるべきではなかっただろうか。僕が見ていた限り、そんなことは一言も言っていなかったと思います。
その他にも番組内容には疑問点が多い
あと、番組中では「タオルを握ると血圧サージを抑えられる」みたいな対策方法も紹介されていましたが、これに対しても桑島医師は以下のように異議を唱えておられます。
ハンドグリップを繰り返すことで安静時の血圧が若干下がるというのはよく知られているが、これはウオーキングやスイミングなどと同様に非薬物療法の一貫として高血圧発症予防あるいは軽症高血圧の患者で推奨されている方法である。必ずしも血圧サージを特異的に抑えるというわけではない。
引用:NHKスペシャルに関しての異議
実際に高血圧や、血圧サージを予防・改善したいのであれば、ウォーキングのような有酸素運動をすべきなのだそうです。これに対してはしっかりとしたエビデンスがあります。
その他の高血圧に対する対策・予防方法については、週刊文春に、より詳しい内容が掲載してあるので、是非ご一読してみてください。
今回のNHK特集に対し「疑問符が付く部分に対する反論」がすべて掲載されています。
まとめ
結局のところ、NHKは高血圧リスクの少ない健常な人であっても「血圧サージで危険」ととらえられかねない放送をしたことが問題だったと僕は思います。
また、単なる生活の中での血圧変動を「血圧サージ」と定義づけかねないような内容だったと思います。
生放送だったとは言え、「ここらへんをもう少しちゃんとできなかったものか」と思います。
ただ、「血圧が知らないうちに変動するもので、高齢者や動脈硬化の方にとっては、朝のサージが心臓病や脳卒中の引き金になり得る」ということと、「毎日適切に血圧を測るのは悪いことではない」ということにおいては、多くの人にメッセージを伝えられたのではないかと思います。
全てが悪いというわけではなく、次回からは無駄に危険をあおるような伝え方ではなく適切に番組を作ってもらえればと思います。
今回使用した血圧計
僕が普段血圧を測るのに利用しているのは、以下のオムロンのものです。
これはこれで安くて正確なんですが、上腕式血圧計だとカフを上腕に巻きつけるのが毎回面倒。
なので、今回数多く測るつもりだったので、以下のタニタの手首式血圧計を購入しました。
これが実際購入したやつ。
これだと、手首につけておいて、測りたいときにポンとボタンを押すだけで計測できて楽でした。
手首式血圧計といえば、昔は「正確ではない」というイメージもありました。けれど今回、実際何度も上腕式と測り比べてみた結果でも誤差程度の差しかありませんでした。
今後は「手首式で血圧を計っても全然問題ないな」と思えるくらいに、手軽で正確でした。今回、かんたんに血圧を測れる手首式血圧計の良さに気づくことができたのは、逆に収穫かも。